横浜が舞台になっていると聞いて気になり、黒澤明の『天国と地獄』をDVDにて鑑賞。
やー、とーっても面白かった! なんで今まで観なかったんだろ?ってくらい。
感想を書きますが、ネタバレになるかもしれないので、これから観ようという方は、観終わってから読んでくださいね。
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横浜に注目して観始めたけど、始まりは室内。
ナショナルシューズという靴メーカーの重役・権藤氏(三船敏郎)の豪邸にて会社の方針を話し合う幹部たち。
その最中に使用人の息子が権藤氏の息子と間違われて誘拐され、身代金を持って権藤氏が電車に乗るまで、前半約1時間、舞台はずっとこの室内。ヒッチコックを思わせるような心理劇で、それぞれの立ち位置、微妙な動きも計算されていて無駄がない。すごい! 引き込まれる! ちっとも飽きない!
壁一面に広がる大きな窓から見える風景は確かに横浜チックで、窓を開けると、「ボオー!」っと汽笛の音がする。
犯人に指示されたとおり、こだまに乗って、窓から鞄に入れた身代金3000万円を投げるシーンを経て、その後は犯人捜査という展開なのだけど、ここでやっと実際の横浜の街が出てくる。
豪邸は山手かと思ったけど、西区浅間台にある。なんと、高校の学区内だったし、住んでた家と近い場所。浅間台は友だちが住んでた。
捜査は、犯人が電話でしゃべっていた内容から推測し、大岡川沿い、黄金町あたりの公衆電話から開始される。そんで車を特定し、共犯者の遺体(ヤク中の男女)を発見し(犯人が殺害)、ついに犯人は若いインターンだとつきとめる。
が、15年の刑ではなく極刑に処そうという意図から、警察は犯人を泳がせる。共犯者の筆跡に似せて「ヤクをくれ」と書いたメモを渡すと、彼はハッとして共犯者の二人が死んでいなかったと知り、ヤクを手に入れるために盛り場へ。
ちょっと悪そうな、遊び人風の若者たちが集まるダンスホール。港町の雰囲気たっぷり。外人もたくさんいる。伊勢佐木町あたりだろうか。もっと港のほうだろうか。
で、その手に入れたヤクを試そうとやってくる場所が、黄金町なのだ。中毒者たちが、よろよろとゾンビのように描かれている。もちろん誇張されてはいるだろうが、これが昭和30年代の横浜だったんだなあと思う。
あとでわかったけど、試されて死んだヤク中の女は、菅井きんだった!(よくわからなかった。)古い映画って、こんなところにこんな人が! ってのが面白い。
ちなみに犯人は山崎努。若い!! なかなかかっこいいです。
そうしてヤクを手に、共犯者のいる小屋へとやってきたところを逮捕される。
最後は獄中の犯人と、重役の権藤氏とのご対面。いくつか言葉を交わしたあと、わが過去と罪に苦しみの声をあげる犯人の前にシャッターがガラガラっと降りる……。
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非常に残忍な犯罪として描かれているけれど、現代の犯罪があまりにひどいので、それほどまでとは思えないのが悲しいところ。
あと、犯人の動機がいまひとつ弱いように思われた。
黄金町あたりの下町から毎日豪邸を眺めるうち、どうにも憎しみを抑えられなくなり…というのはわかる。逆恨みですね。悲しいかな、人間ってそういう気持ちを抱いてしまう生き物。
だけど、わざわざあんな凝った犯罪を犯すほどの動機とは思えないし、前半、企業内の確執とか金と命の問題とか、色々面白いテーマがあったのにそことあまりつながっていないようなのも、なぜかなあという気がする。
でも、すごく面白くって、140分と長いのに全然飽きなくって、とても楽しめる映画でした。
他にもモノクロの画面に一瞬だけ煙突から吐き出される煙がピンク色になったのも面白かった。