しかしまあ何と評判の悪いこと。そして混乱の極みであること。
4月1日に書いた後期高齢者医療制度のことです。ニュースは毎日ひどい制度だ、高齢者が困っている怒っている、と伝えている。民主党は制度の廃止を求め始めた。
この制度って、じつは2年前の6月に決まったことなんだよね。ちょうど私が辞めるころ。あのころ、まさか実際に始まってからこんな騒ぎになるなんて、まったく想像できなかった。
何しろ、わたしたちにとって「新しい高齢者医療制度の創設」というのは積年の願いであった。「老人保健制度」というのが悪者で、いつもいつも「新しい高齢者医療制度の創設」を主張してきた。もう耳にたこ。
入ったばかりのころ、老人保健制度という制度自体も、何が悪いのかもちっともわからず、ノートに書いて勉強してたっけ(それでもよくわからなかった…)。
だから2年前、法案が通って成立したことは、主張が反映されない部分こそあれ概ね評価できる、みたいなスタンスであり、喜ばしいことであったのです!
しかし1年前からこの業界と違うところで仕事をしてみたら、だれもこの制度のこと知らなくてびっくりしたのだった。
そうか、わたしにとっての常識は常識でないんだな…などと思っていたのだけど、2年前に決まって、この4月から施行されるまでの間、マスコミに取り上げられることがほとんどなかったから、知らなくて当然だよね。
池上彰さんが先日、朝日新聞夕刊の「新聞ななめ読み」というコーナーで、この制度のことを例に、記者の資質として必要なものは想像力ではないか、ということを書いていた。
少し引用します。
「後期高齢者」という用語は、学者や官僚の間で75歳以上の人を年齢で分けるために使われてきました。学者が使用している上では問題がなくても、自分が「後期高齢者」と名指しされたら、どう思うのか。担当記者には、そんな想像力が欲しかった。
そう、わたしは「学者や官僚」側の人間であったので、まさに便宜的に使っていたのです。
にしても、なぜもっと嫌悪感だとか違和感を覚えなかったのだろう、と、ここのところこのニュースを見るたびに考えてしまう。
しかしまあ、それこそ大学を卒業し、何も知らず初めて社会に出てからずーーっと「後期高齢者」って言葉は普通に使っていたから無理もないという気もする。
あのころは今より高齢者から遠かったし。
変だなーっていう言葉はもっともっといっぱいあった。
役人の生み出す言葉は本当にわかりにくくてセンスがない、といつもいつも思っていた。嫌だった。そうだ、そういう感覚がわたしは嫌だった。
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わたしは機関誌で、新聞社の論説委員とわたしたちのトップとの対談だとかインタビューだとか、高齢者医療制度に関する特集をたくさんやって、「高齢者にも応分の負担を」なんて主張を平気で「そうかそうかもな、ふんふん」と素直に聞いて記事にしたりしていたもんです。
結局わたしたちにとっては医療費の財源をどこに求めるか、ということが大事なのであり、自分たちにだけ負担を求められるのは困る、ということを主張しなければならないのだった。わたしはそういう立場の人間だった。
といって、「自分たち」といったって、当事者団体とは違って、実際に自分の懐が痛むわけではない。
だからなんだかどうも熱が入らず、のほほん、としている職員が多かったように思う。わたしが実際そうだった(もちろん熱い人もいましたが)。
むしろ今の方がずうっと問題意識が高くなっているような。
そして一体、あの組織の役割はなんだったんだろう、とも思うのだ。
何ができるのか。いや何をしているのだ、もっとできることがあるんじゃないのか、と問いただしたい気持ち。
情報がわんさか入る立場にあって毎月記者会見もしていてテレビCMも持っていて、もっともっと色んなことができるのに、というもどかしい気持ちもある。
ほんとに、もどかしい。もっと役に立つ情報を流してほしいよ。
機関誌を読んでいると、正直、腹が立つ。不親切で。情報を流しているだけ。編集者の主張とかわかりやすく伝えようという意志が伝わってこない。
おっと熱くなりました。それで話を戻すと。
確かに自分が75歳以上で、今まで一度も「後期高齢者」なんて言葉を聞いたこともなく、制度の説明もろくにされず、いきなり「あなたは後期高齢者です。来月から保険料を徴収します」なんて言われたら驚くだろう。これに社保庁の年金問題も重なるからなおひどい。ニュースでよく言われているけど、年金は支給しないわ、保険料は徴収するわ、では確かにあんまりだ。
それに、そうだなあ、よく考えてみたら、ひどいよね。「後期」って。
実際に作る側ではないとはいえ、制度創設に向けて主張していくという意味で、その端っこの端っこに関わっていたのだわたしは。
かつての同僚たちはどんなふうに考えているのだろう。この騒ぎをどう受け止めているのだろう。聞いてみたい。
なんだか長々書いたわりにはちっともまとまらないけど、4月に入ってからずっとこの制度のことがひっかかっている。驚いたり考えさせられたり思い返したり、ぐるぐるしている。